大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)294号 判決 1977年3月15日

昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人・

内山てる子

昭和五一年(ネ)第二七七号事件被控訴人(甲・乙事件原告)

昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人(丙事件被告)

鈴木章充

昭和五一年(ネ)第二九四号事件被控訴人(甲事件被告)

仲里貞男

ほか一名

昭和五一年(ネ)第二九四号事件被控訴人・

仲里貞昭

昭和五一年(ネ)第二七七号事件控訴人(乙事件被告・丙事件原告)

主文

1  昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人内山の本件控訴を棄却する。

2  原判決中乙事件に関する部分及び丙事件中原告貞昭と被告鈴木とに関する部分を次の通り変更する。

一  乙事件被告貞昭は、同原告内山に対し、金一四九、六三八円及びこれに対する昭和五〇年八月一日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  丙事件被告鈴木は、同原告貞昭に対し、金一五、〇〇〇円及びこれに対する昭和四八年七月二七日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  乙事件原告内山の同事件被告貞昭に対するその余の請求及び丙事件原告貞昭の同事件被告鈴木に対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人内山と同事件被控訴人貞男及び同友代の間では控訴費用を全部右内山の負担とし、同事件控訴人昭和五一年(ネ)第二七七号事件被控訴人内山及び昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人鈴木と昭和五一年(ネ)第二七七号事件控訴人、同年(ネ)第二九四号事件被控訴人貞昭との間では第一、二審を通じ二分の一を右内山及び鈴木の平分負担とし、残余を右貞昭の負担とする。

参加により生じた訴訟費用は第一、二審を通じその二分の一を補助参加人の負担とし、その余を右貞昭の負担とする。

4  主文2一及び二は仮に執行することが出来る。

事実

第一当事者の求める裁判

(昭和五一年(ネ)第二七七号事件)

一  控訴の趣旨

1  原判決中乙事件に関する控訴人貞昭敗訴の部分を取消す。

2  被控訴人内山の請求を棄却する。

3  乙事件の訴訟費用は、第一審、第二審ともに被控訴人内山の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却の判決を求める。

(昭和五一年(ネ)第二九四号事件)

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人内山、鈴木敗訴の部分を取消す。

2  被控訴人貞昭、貞男、友代は、各自控訴人内山に対して金二六七、七〇二円及びこれに対する昭和五〇年八月一日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人貞昭の控訴人鈴木に対する請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一審、第二審ともに被控訴人貞昭、貞男、友代の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却の判決を求める。

第二当事者の主張及び証拠

次のとおり附加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  昭和五一年(ネ)第二七七号事件(原審乙事件)について、控訴人貞昭は、次の通り主張した。

1  被控訴人らは、本件道路上を直進中後方より追越をしようとした貞昭の運転する自動二輪車に追突されたと主張しているが、後続車の前車への衝突事故の類型を考えてみると前車が減速若しくは停車した場合とか左右に車線を変更した場合とかに発生するものであつて前車に何の変化もないにも拘らず後方からわざわざ追突して行く事案などは有り得ない。

2  原判決は、原告車の評価落ちによる損害を二五万円程度と認定している。ところで、原告車は、合計金一、〇四五、〇〇〇円で購入され、納車後二週間で本件事故にあつたもので、修理後の原告車の評価額は金六八万円であるから、原判決は、事故にあわなかつた場合の事故時点における原告車の評価額を九三万円程度と考えた事になる。

3  しかし、修理後の原告車の評価額六八万円を甲第四号証の二に基いて認定するのならば、事故にあわなかつた場合の評価額も甲第四号証の一により金七三万円と認定すべきものである。

4  本件事故は、同一方向に進行する自動二輪車と四輪車とが側面をこすりあつた事故で、原告車は、フエンダーやドアに傷がついただけで全体的な歪みや機能上の打撃は一切生じて居らず、修理費も金九二、三四〇円に過ぎないのであるから、修理代の二・五倍以上の評価落ちなど考えられない。

5  これに反して、事故にあわなかつた場合の評価額を前記のように金七三万円と認定すれば、評価落ちは修理後の価額六八万円との差額五万円となり、決して納得出来ない数字ではない。

二  昭和五一年(ネ)第二九四号事件について。

1  甲事件について。

(一) 控訴人内山は、次のように主張した。

(1) 被控訴人貞昭は、本件事故当時一七歳で高校在学中であり、一銭の収入もなく、その生活費、学費、本件事故車両の維持費、保険料などは、被控訴人貞男、同友代に全面的に依存し、未だ独立して生活する能力を有していなかつた。

(2) 本件事故車両は、被控訴人貞男、同友代が被控訴人貞昭のために買与えたものである。

(3) かゝる事情の下に発生した未成年者の不法行為と監督義務違反との間に相当因果関係が存することは明白であるから、被控訴人貞男、同友代の監督義務懈怠につき民法第七百九条による不法行為が成立するものと判断しなければならない。

(二) 控訴人貞男、同友代は、右主張に対して、次の通り反論した。

(1) 控訴人内山の主張する監督義務懈怠は、その内容が明白でない。親が未成年の子に対して自動二輪車を買与えたことは右懈怠と無関係である。

(2) 親の責任が例外的に発生するのは、結果の発生に対してもつと直接的かつ密接した懈怠がある場合であり、本件事故は、先行車の車線変更の際、後続車が接触したに過ぎないから、そのような事案ではない。

2  丙事件について、控訴人鈴木は次の通り主張した。

(一) 控訴人鈴木は、本件道路を時速四五キロメートル位で直進中、後方より追越を試みた被控訴人貞昭運転の自動二輪車が右後方から追突して来たものであるから、衝突を未然に防止すべき運転上の義務はない。

(二) 寧ろ、被控訴人貞昭こそ、前方を注視し、前方走行車両の動静を注視し、これとの衝突を未然に防止すべき義務がある。

三  昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人両名は、控訴本人鈴木章充の当審における尋問の結果を援用した。

四  昭和五一年(ネ)第二七七号事件控訴人貞昭は、当審における証人神田博の証言を援用した。

理由

第一  事故の発生、昭和五一年(ネ)第二七七号事件控訴人貞昭、同年(ネ)第二九四号事件控訴人内山、同鈴木の責任原因、免責、過失相殺について。

この点に関する当裁判所の判断は、次の通り訂正するほか原判決理由一の記載(原判決一三枚目表一行目から一五枚目表七行目まで)と同一であるから、これをここに引用する。

一  原判決一三枚目裏五行目及び六行目を「ガラス破片等が散乱し、衝突地点の前方で、歩道から約三・六メートルの位置に原告車(乗用車)の右側車両のスリツプ痕が僅かな角度ながら左斜前方に向つて約六・四メートル残り、更にその前方に歩道から約三・九メートルの位置に被告車(自動二輪車)のスリツプ痕が約六・八メートル残つていた。」と訂正する。

二  原判決一四枚目表四行目「右認定を左右するに足りる証拠はない。」を「右認定に反する原審及び当審における鈴木章充の供述、原審における内山てる子の供述並びに甲第一号証の五の記載は措信しない。」と訂正する。

三  原判決一四枚目裏二行目「第二車線へ」以下五行を「原告車を追越すべく、加速しながらその右側に出ようとしたところ、その際後方に注意を奪われ、前方注視を怠つたため、原告車が駐車車両を避けるため若干右側にふくらんだのを見落し、ハンドル操作が遅れたため、被告車のハンドル部分を原告車の右側面に接触させた。」と訂正する。

第二  昭和五一年(ネ)第二九四号事件被控訴人貞男、同友代の責任原因

この点に関する当裁判所の判断は、原判決一五枚目裏三行目「乙第二号証」を「乙第一号証、前記甲第一号証の四」と訂正し、原判決一五枚目裏一一行目の「前科前歴はない。」の次に、「ところで、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認め得るためには、監督義務者が相当の監督をすれば加害行為の発生が防止され得た事、その監督を現実になし得た事、監督をせずに放任しておけば当該加害行為が発生するとの蓋然性が一般的にも強い場合であつた事などの要件を充足する事が必要である。」を附加し、また、原判決一六枚目表三行目の「損害賠償義務を問うに足りる証拠はない。」を「損害賠償責任を問うべき前記の諸要件が充足したものとは認められない。」とあらためるほか原判決理由二の記載(原判決一五枚目表九行目から一六枚目表五行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

第三  昭和五一年(ネ)第二九四号事件控訴人内山の損害

この点に関する当裁判所の判断は、原判決理由三(二)(原判決一六枚目裏一行目から一七枚目表一行目まで)を、「当審証人神田博夫の証言及び右証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二によると、原告車(三菱ギヤランA52HSクーペ)は納車後二週間の経過により中古車として評価されるため、事故にあわなかつた場合でも評価落ちし、その評価額は金七三万円となること、また本件事故による損傷修理後の査定価格は金六八万円であると認められる。従つて、本件事故による原告車の評価落ちによる損害は五万円と算定するのが相当である。」とあらため、また原判決理由三(三)のうち「金三四万二三四〇円」とあるのを「金一四万二三四〇円」と、「二三万九六三八円」とあるのを「金九万九六三八円」とあらためるほか原判決理由三の記載(原判決一六枚目表六行目から一七枚表一〇行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

第四  昭和五一年(ネ)第二九四号事件被控訴人貞昭の損害について

この点に関する当裁判所の判断は、原判決一八枚目裏七行目「償却落ち等の事実を」の次に「原告車の場合と比較」を加入し、同所八行目の「一五万円」を「金五万円」に、同九行目の「四万五〇〇〇円」を「金一万五〇〇〇円」とあらためるほか原判決理由四の記載(原判決一七枚目表一〇行目から一八枚目裏九行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

第五  結論

一  以上の次第であるから、

(一)  本件甲事件については、原告内山の被告貞男、同友代両名に対する請求は理由がないから、これを失当として棄却すべきものである。

(二)  本件乙事件については、原告内山の被告貞昭に対する請求は、金一四九、六三八円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和五〇年八月一日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は理由がないから失当として棄却すべきものである。

(三)  本件丙事件については、原告貞昭の被告鈴木に対する請求は金一五、〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日の昭和四八年七月二七日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は理由がないから失当として棄却すべきものである。

二  よつて、

(一)  本件甲、乙事件に関する内山の控訴(昭和五一年(ネ)第二九四号事件)は理由がない。

(二)  本件乙事件に関する貞昭の控訴(昭和五一年(ネ)第二七七号事件)は前記の限度において理由がある。

(三)  本件丙事件に関する鈴木の控訴(昭和五一年(ネ)第二九四号事件)は、前記の限度において理由がある。

三  訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条、第九十二条から第九十六条までの規定を、仮執行の宣言については、同法第百九十六条の規定を各適用する。

四  よつて、主文の通り判決する。

(裁判官 室伏壮一郎 三井哲夫 河本誠之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例